『あめとかさとストライプ(ver.2)』

うえお あい

 寒すぎだった。

 昼すぎから降りだした雨は容赦なくアスファルトの街から温度を奪っていく。

 私たちが店を出るときにもまだ飽きることなく降り続く雨に私はうんざりしていた。

 店から駅への一本道がかぎりなく遠く感じる。

「寒くない? こっちおいでよ」

 傘を忘れた私を見かねたのか相手は、そう言った。申し訳程度に頭をさげて傘に入れてもらうと、ふるふると首をふり、髪についた水滴を落とす。

 よりによってこんな日に送別会などしなくてもいいんじゃないだろうか。

 私じゃなくてもそう思うんじゃないだろうか。

 幹事出て来いと思うのだが、幹事は自分自身なのでご愁傷様。

「拾われた犬みたいだ」

 髪に続いて服の水滴をはらっていた私はむくれて、べーっと舌をつきだした。拾う気もない男に笑われたくない。

 安物の傘にパラパラと雨が落ちる。

 さすがに男物の傘は大きいが安物。この男が100円均一の傘を愛用していることを私は知っている。

 いつもの黒いコートではなく、カジュアルなストライプのジャケット。

 はじめて見るそのジャケット。なかにはベロア風のシャツを合わせていて年の割には頑張っているな、と先ほど同僚とチェックをいれた。

 駅についたら、私たちは左右に別れる。帰る電車が違う私たち。違う駅からそれぞれの路線に乗って、それっきり。多分もう、会わない。

 さようなら。

 でも私たちの会社を捨てたのはあなただ。

 敷かれているレールを左右に分けたのはあなただ。それだけは疑いようのない事実。

 横断歩道を渡ったら、私の利用している駅。

 その地下道を降りたら、相手が利用している駅。

 一緒に歩くのはここまで。

「じゃ、元気で」

 同じ言葉を同時に発して私たちは笑った。

 こんな似なくてもいいところまで似てしまうのはやっぱり、一緒にいる時間が長かった弊害だろうか。

 右手が差し出される。その手を私も力を込めて握った。

 握手で最後。

 それも彼が持ち込んだルールだった。

「傘もっておいき。風邪を引いたら困るだろ」

 なぁに、バカップルみたいなこと言ってんだか、 と眉をしかめる私に無理やり傘の柄を持たせて、自分の言葉に笑っていた。

「なんかバカップルくさい言い方じゃなかった?」

「本当に」

 あきれた私もつられて笑って、青になった横断歩道を一人で渡る。

 大きな男物の傘を手にして。

 ちらりと、ストライプのジャケットが地下道の会談を降りるのが見えた。

 くるり、くるりと傘を回してツートンカラーに塗りわけられた道路を歩く。

 さようなら、元気で。

 この傘、いままでの謝礼に取っておくけど、ホントは私ここから傘いらないのよ?

 そっちこそ風邪引かないように。そう考えて私はまた一人で笑った。

-了-

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