『あめとかさとストライプ(ver.1)』

うえお あい

 寒くなっていた。

 昼すぎから降りだした雨は容赦なくアスファルトの街から温度を奪っていく。

 私たちが店を出るときにはピークを過ぎていたが、それでも飽きることなく降り続いていた。

 雨の中、店から駅への一本道。

「寒くない? こっちおいでよ」

 そういわれて私は、軽く頭を下げて相手の傘にはいった。

 傘を忘れた私は、そう雨勢が強くないのをいいことに、濡れるのも気にせず歩いていた。

 傘の中でふるふると首をふり、水滴を落とす。

「拾われた犬みたいだ」

 笑われた私はむくれて、べーっと舌をつきだす。拾う気もない男に言われたくなかった。

 安物の傘にパラパラと雨が落ちる。

 さすがに男物の傘は大きい。

 いつもの黒いコートではなく、カジュアルなストライプのジャケット。

 はじめて見るそのジャケット。誰が用意したんだろう、なんて余計なことも考えてみる。

 駅についたら、私たちは左右に別れる。帰る電車が違う私たち。違う駅からそれぞれの路線に乗って、それっきり。多分もう、会わない。

 違うレールを選んだから。

 敷かれているレールも左右に別れた。それだけ。

 横断歩道を渡ったら、私の利用している駅。

 その地下道を降りたら、相手が利用している駅。

 私は一度目を伏せ、改めて相手の顔を見る。

「じゃ、元気で」

 同じ言葉を同時に発して私たちは笑った。

 右手が差し出される。その手を私も力を込めて握った。

 握手で最後。

「傘もっておいき。風邪を引いたら困るだろ」

 眉をしかめる私に無理やり傘の柄を持たせて、自分の言葉に笑っていた。

「なんかバカップルくさい言い方じゃなかった?」

「本当に」

 私もつられて笑って、青になった横断歩道を一人で渡る。

 大きな男物の傘を手にして。

 ちらりと、ストライプのジャケットが地下道の会談を降りるのが見えた。

 くるり、くるりと傘を回してツートンカラーに塗りわけられた道路を歩く。

 さようなら、元気で。

 もうあうことのない男の傘を私は大事に持って帰った。

-了-

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