『帰り道』

小鳥遊 茜

登場人物

ミキ(18)
高校3年生。内気でおとなしいが弱い人間では無い。清水に想いを寄せている。
フジ(18)
ミキの親友。活発で明るく、美人。自分というものをしっかりと持っている。
清水(18)
ミキの想い人。シャイで、女の子とあまり話さない。
中谷(18)
清水の友人。やたら明るい。
ナオミ(18)
クラスで一番目立つハデ女。

橋の前の交差点

 
横断歩道を渡り、橋の方へ歩いてくるミキ(18)とフジ(18)。二人は、卒業証書の入ってる筒と、きれいに包まれた一輪の花を持っている。

メインタイトル

『帰り道』

 
橋の手前で立ち止まる二人。
ミキ
「今日で、サイゴなんだよね」
フジ
「うん、ミキと帰るのもね」
ミキ
「……今日もうちょっと、しゃべらない?」
フジ
「ん!私もまだ帰りたくなかったんだ。サイゴだしね」
 
橋を進み、少し広くなっているところで柵を背もたれにして地べたに座り込む。
フジ
「こんなところでしゃべれるのも今日までだねー…」
ミキ
「うん、大学生になったらできないね」
 
ミキ、自分の足元に目をやる。
ミキ
「このルーズソックスも、今日でサイゴだぁ。ちょっと悲しくなっちゃった」
フジ
「私は一度もはかなかったけどね」
 
くすくす笑うミキ。
フジ
「なによー」
ミキ
「変わってないなーって、思って。……覚えてる?私とフジがはじめて仲良くなったときのこと」

回想・1年4組の教室

フジの声「あー…覚えてる。あの頃まだ私、ナオミのグループにいたんだ」

 
ナオミ(16)と高校一年のミキ(16)が向かい合って立っている。ナオミの後ろに、フジ、その横にげらげら笑いながら話をしている女子数人がいる。ミキの後ろには、不安げな表情の女子生徒が二人立っている。
ミキ
「聞こえたのだけど。あやまって下さい」
ナオミ
「ダサいヤツをダサいって言って何が悪ぅいの?」
 
ミキ、ナオミを精いっぱいにらむ。
ナオミ
「別にあんたのこと言ったんじゃないよ。自分では言い返そうともしない、うしろでアタシのことにらんでるあの二人のこと言ってンのよ」
 
後ろの二人、ビクッとして半泣きになる。
ミキ
「この二人はあなたの言葉で傷ついたのよ。あやまってよ」
 
ナオミ、くるっと振り返る。
ナオミ
「フジ〜あんたも何か言ってやってよ〜」
 
フジ、ミキをじっと見つめながらナオミの横に並ぶ。
ミキ、負けじとフジをにらみつける。
フジ、ミキを見つめたままミキに近づく。
そして突然、笑顔になる。
フジ
「あんた、気に入っちゃった。友達になろう」
一同
「えっ?!」
 
困惑するミキの肩を抱き、教室を出て行くフジ。
あっけにとられてそれを見送る一同。

橋の上

 
ミキとフジ、照れたように笑い合う。
ミキ
「フジは、『自分』っていうのがあった、っていうか。個性的っていうか……」
フジ
「ただみんなと同じ、っていうのが嫌いなだけ。偏屈なだけよ」
 
フジ、ふうっとため息。
フジ
「そのせいか、とうとう三年間彼氏できなかったァ」
ミキ
「二人とも、できなかったね。毎年お参りしたのに……」
 
フジ、両手をポンッと合わせる。
フジ
「今年こそ運命の人にめぐりあえますようにってねェ」
 
ミキ、フジの顔をのぞき込む。
ミキ
「フジの場合は、運命の人にめぐりあっていたとしてもフッちゃってる気がするんですけどォ。人一倍モテるのに。もったいないなぁ」
 
苦い顔のフジ。ふざけてミキに抱きつく。
フジ
「だぁってェ〜好きになれる人がいなかったんだよおーーーっ!」
 
ハッとして、ミキの肩を押し、離れる。
フジ
「そういえば、あんた、返事もらったっけ……?」
 
悲しい顔で首を振るミキ。
フジ
「そっか……くぅ、清水のやつ。私のかわいいミキを……」
ミキ
「ううん、いいの。わかってたから。私のこと、好きじゃないって、わかってたから」
フジ
「だとしても、告白の返事くらいしろっちゅーの!……たとえ、断るにしても……もー、何であんた、そんな男スキになったのよ。今日こそ吐いてもらうよ」
ミキ
「そんな、理由なんて、ないよ。うん、でも、きっかけなら、あるかな?」
フジ
「何で今までヒミツだったのかわからないけど、言って!」
ミキ
「だって、全然大したことじゃないんだもん……」

回想・1年4組の教室

 
冬服の教室。
窓側の席に、高校一年の清水(16)が座っている。イヤホンをつけ、音楽をきいている。
ガラリと教室のドアが開き、走って入ってくるミキ。窓側の自分の机からファイルを取り出し、再び走り出すが、清水の机にぶつかり、机の上にあったCDケースが落ちる。
ミキ
「あ、ゴメン」
 
ミキ、CDケースを拾い上げる。
ミキ
「あ、このバンド……」
清水、イヤホンを外す。
清水
「知ってるの?」
ミキ
「うん。スキなんだ。でもみんなあんまり知らないよね」
清水
「うん、そうなんだよな。すっげーイイのに」
ミキ
「このバンドスキな人が身近にいたって、すごいウレシイな」
清水
「ん、そーだね…」
話しにくそうに頭をかく清水。

女子生徒「ミキー!何してるの、早くー」

 
再びイヤホンをつける清水。
ミキ、CDケースを清水に手渡し、何も言わず走って教室を出ていく。

橋の上

フジ
「それだけ?」
ミキ
「それだけ」
フジ
「全然会話してないじゃない」
ミキ
「うん。だからよ。私はあんまりしゃべる人好きじゃないし。どちらかというとクールな一匹狼タイプがスキなんだ」
フジ
「ふぅん……」
笑顔で空を仰ぐミキ。
ミキ
「あーあ。フジに背中押されて告白したのはいいけど、フられちゃったな」
フジ
「まだフられてないよ。返事がないだけで……」
ミキ
「フるのも面倒なくらい何とも思ってなかったのよ」
フジ
「でも、あんたよく目が合うってうれしそうにしてたじゃない」
ミキ
「人の顔を見るのがクセな人だったんだよ」
うつむくフジ。
フジ
「……あんたに、言おうか言うまいか迷ってたことがあったんだけど……変に期待させちゃいけないと思って……」
ミキ
「なぁに?教えてよ」
フジ、ミキの目をじっと見つめる。
フジ
「…いっかあ、卒業の日だ!ばくろ大会だっ!あれは、去年の秋だったな」

回想・3年2組の前の廊下

 
夕暮れの中、高校三年の清水と清水の友人、中谷(18)が教室の中で話している。
向こうからやってくるフジ。三年二組の前を通ると、話し声が聞こえ、思わず立ち止まる。

回想・三年二組の教室

中谷
「清水ってさー、いっつもミキのこと見てるよな」
清水、マンガ雑誌のページをめくる。
中谷
「好きなのかー?」
清水
「別に見てなんかねぇよ」
中谷
「そっか?俺から見てっとかなり気にしてるカンジだぜ」
清水
「一回しかしゃべったことないし」
中谷
「へぇ…………いいよなあ、淡い恋。俺なんか、きのー彼女にひっぱたかれたんだぜ。悪いコトしてないのに。ちょっと、触っただけなのにさァー」

回想・三年二組の前の廊下

 
気づかれないように去るフジ。

橋の上

ミキ
「ふぅん……」
フジ
「私がやたら告白をすすめたのは、このことが頭にあったからよ。絶対、清水はミキのこと気にしてるわ。本人が否定していてもね」
ミキ
「そうかなあ。そうだとイイな」
フジ
「そうよ。あんたも、待ってばかりいないで、自分から返事チョウダイって言ってみればいいのよ!もう子供じゃないんだから」
ミキ、苦い笑い。
ミキ
「うん、そうよね。勇気出して、聞いてみないとダメよね。まだ断られたワケじゃないんだもんね」
フジ、ミキの肩をポンッとたたく。
フジ
「元気出たじゃん」
ミキ、にっこり笑う。
フジ
「そろそろ、帰ろっか!」
ミキ
「うん、ありがとう、フジ。私、頑張っちゃうからね」
立ち上がる二人。
フジ
「じゃあね。また電話するね」
フジ、橋を戻り、横断歩道の手前で手を振る。
フジ
「返事もらったら、ちゃんと連絡するんだよー!!」
ミキ、手を振り返す。
右に折れて見えなくなるフジ。
ミキ、ふうっと息をついて橋を渡り始める。

回想・空き地(夜)

 
雪が降る平原に、ミキが一人佇んでいる。
やってくる清水。
ミキ
「ごめんね、寒いのに。呼び出したりして」

 
無表情で歩き続けるミキ。

回想・空き地(夜)

 
ミキ、清水に紙袋を差し出す。
ミキ
「マンガみたいで恥ずかしいんだけど、チョコレートなの」
清水、無言で受け取る。
ミキ
「ごめんね、まだ受験終わってないのに、こんなこと気が引けてたんだけど、でも、あの……」
清水のまっすぐな視線に、落ち着きを取り戻すミキ。
ミキ
「一年の時から、スキだったの。ずっとずっと言いたかった。けど、こんなサイゴのサイゴになっちゃった。受験で大変な時に、ホント迷ったんだけど……今、言わないと一生言えない気がしたの」
ミキ、深く深呼吸する。
ミキ
「私、清水くんの心の支えになりたい」
清水、ミキを真っすぐ見つめる。
清水
「つき合ってくれって、こと…?」
ミキ
「うん……、そう……」
清水、困惑して、目をそらす。

 
ミキの目に涙がたまってくる。

回想・空き地(夜)

 
ミキ、恥ずかしさのあまり、赤くなる。
だまったままの清水。
ミキ、沈黙にたえ切れず、
ミキ
「返事、卒業式の日でいいよ。じ、じっくり考えてみてほしいしっ……。もし、もしダメなんだったら、何も言わないでいいよ。返事、しないで。ムシしてくれちゃっていいから。ねっ!じゃあ、ね!バイバイっ!」
言い捨てて走り去る。

 
ミキの無表情が、次第に泣き顔に変わっていく。早足になり、走りだす。こぼれそうな涙を抑える。
やがて橋を渡り終える。

回想・卒業式の会場

 
生徒たちが、泣いたり笑ったり写真をとったりして騒いでいる。
生徒数人とはしゃぐフジの横で、キョロキョロと落ち着かないミキ。
ふと、視線が定まる。
人ゴミの中に、清水が見え隠れする。
清水はこちらに気づかないまま、見えなくなる。
とり残されたように一人立ちすくむミキ。

橋から左に折れた道

 
ミキ、来る。立ち止まり、涙をぬぐう。
カバンから鏡を取り出し、のぞき込む。
無理に笑顔をつくって、また無表情に戻る。
鏡をカバンにしまい、精いっぱいに伸びをする。
次の瞬間、さわやかな笑顔になる。再び、歩き出す。
向こうから人影が来る。
ハッとして、立ち止まるミキ。
ほほを、涙が伝う。
ミキの前に、清水が立っている。照れくさそうな笑顔。
満面の笑みを浮かべるミキ。

-了-

index